和服御曹司で俳優な幼馴染に、絶対溺愛されてます
 本当は帰ってくるつもりはなかった。

(だけど、私はキラキラした輝かしい女性にはなることは出来なかった)

 田舎はのんびりしてて……ストレスも少ない。
 風光明媚で心の療養には良いけれど、都会のように胸を躍らせるものは少ない。
 時折、無性に挫折感と疲労感が襲ってくる。

「ミサ」

 ふらりと店先に、打ち水のために母が現れた。

「だいぶ元気になった?」

「うん」

 曖昧に返事をする。

「若い漁師さんが港に来てて紹介しようかって言われてるけれど、どうする?」

「紹介?」

「島には若い人もあまりいないし、最近、都会では結婚が遅くても問題はないみたいだけれど。まだこの村じゃあ、行き遅れって言われちゃうしね……。結婚したら、調子が良くなる人も多いみたいだし。まあ、いっそ結婚しないのも手だけれど……」

「うん、考えておく……」

「はあ、小さい頃はねぇ、リュウちゃんがねぇ、嫁にもらってくれるって思ってたんだけど」

 母がため息をついた。
 リュウちゃんは、大神竜聖という、幼馴染のあだ名だ。

「同級生とか幼馴染に夢を見過ぎよ、お母さん。リュウちゃんは、今や人気の俳優さんなんだから」

「そうね、あんなに有名になっちゃうなんてね」

 少しだけ話した後、母は店の奥の居住スペースへと戻っていった。
 ミサの胸の内は沈鬱だった。
 
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