和服御曹司で俳優な幼馴染に、絶対溺愛されてます



 太陽の陽ざしがジリジリと肌を焦がしてくる。

 チリン、チリン。

 風鈴の音をかき消すかのように、蝉がやかましく声を張っていた。
 夏だ。うだるような熱さの中、全身にじわりと汗が滲む。

「お姉ちゃん、スイカの形のアイスちょうだい」

 駄菓子屋に現れた小学生の女の子に請われ、アイスボックスの中から目的のものをミサは取り出す。ひんやりとした冷気が漂い、一瞬だけ心地が良かった。

「はい、130円です」

 ミサが小学生の頃に比べたら、だいぶアイスも値上がりしたようだ。
 がま口財布の中から、たどたどしくお金を渡してきた少女の愛くるしい笑顔が、今はなんだか彼女の居心地を悪くさせてくる。
 未来への希望に満ちた小学生達を見ると、自分にもあんな頃があったなと漠然と思った。

(会社辞めちゃったし……実家に帰ってきちゃったし、もうこのままぼんやり駄菓子を売って一生を過ごすのかな)

 親の希望通り、県内の高校と大学に通った。けれども、どうしても、テレビで見るキラキラしたOLさんに憧れて思い切って島を飛び出すことにした。
 就いた仕事はウェディングプランナー。
 西日本では一番大きな街に出て、わりと良い中小企業で勤め先を得て、立派なホテルで数年頑張って働いた。
 夫婦の最高に幸せな一日を提供するための仕事。
 成功した時のやりがいや達成感はものすごいものだった。

(だって、やっぱり晴れの舞台を演出できるなんて……本当に最高の仕事だった)

 だけど、問題は上司だった。
 現れた夫婦になんとしてでも式場の契約をとってもらわないといけない。とれないと叱責が続いた。とれたところで、夫婦から無理な要望をされることも多い。それらを上司に相談しても、「自分でなんとかしろ」と言われるだけ。

(やりがいのある仕事だったけれど、人間関係で躓いちゃうなんて……)

 次第に「田舎者は何も分からない」と、なぜか人格否定のような言葉を受けるようになった。頑張らないといけないと無理な残業が続き、体調を崩してしまった。病休を取って一月後に復職したけれど、上司から毎日遠回しに退職を促された。怨嗟の声は毎日続いて、ついに故郷の島へと戻ってきたのだ。
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