シークレット・ウェディング
 それを乱暴に拭ったときだった。


「俺のお姫様は、なんで泣いてんの?」

「そりゃあ遼が……って、え?」

「ただいま、梓沙」


 ふいに聞こえた、忘れもしない愛しいあいつの声。


 反射的に顔をあげれば、似合わないスーツに身を包んだ遼がいた。


「な、なんで……」

「梓沙不足」


 聞きたいことはたくさんある。


 でも艶っぽい眼差しで私を捉えたまま、床に押し倒された瞬間にはもうなにもかも頭から消えていた。


「り、遼──」


 黙って、と言わんばかりに私の唇に落とされた甘い口付けに思わず目をつぶる。


「ちょっとそのまま目つぶってて」

「へ?」

「だから開けんなってば」

「……わっ」


 少し不機嫌そうな遼を捉えた直後、バサッと落ちてきた〝なにか〟によって視界を塞がれた。


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