婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「……」

 言葉が出ません。

「うん。広い心って大事だよね」

 レイ様がニッコニッコな顔で満足げに頷いています。百万の味方でも得たような自信にみなぎっています。

 悔しいです。

 エルザまで、レイ様の味方をするとは……思いませんでした。

「レイ様、もうそろそろよろしいのではないですか?」

 誰も頼れない以上自分で何とかしなくてはなりません。
 抱っこされてからけっこうな時間が立っていると思うのですが、ずっと抱きっぱなしはきついでしょう。 

「まだ、一分しか経っていないと思う」

「いいえ。そんなわけはありません。一時間は経っていると思いますよ」

 時間の経過ははっきりとはわかりませんが、一分のわけはありませんからね。

「ごめん。俺の勘違いだった。三十秒くらいだった」

 軽い調子でレイ様がおどけます。
 これは、面白がっていますよね。本気で相手をするのも疲れますが、かといって諦めるのも癪に障ります。

 どうすればいいのでしょう。

 レイ様に抱かれたまま、身じろぎ一つできないのでは抵抗のしようもありません。
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