婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「ああ、私も最初はビックリしたよ。黒い飲み物なんて見たことはなかったからね」

 ローレンツはそう言いながら湯気の立つコーヒーカップを手に取った。

 ソーサーの隣には少し塩気をきかせたチーズクラッカー。

 甘みが少ないので甘いものが苦手な彼でも食べられるようだわ。お酒のおつまみにもいいようで、オードブル風に盛り付けて時々出してもらっている。

 カフェのメニューも考案中だから、これもアレンジして出そうかしら。

「あなた、コーヒーのことだけれど、大目に仕入れてくださらないかしら」

「うん? 取引することに決めたのかい?」

「ええ。職場でも試飲してもらっているけれど、割と好評なのよ。まあ、初めはおっかなびっくりだったけれど。苦みが甘いものと合うと言って飲む人もいるし、紅茶と半々くらいかしらね。だから、いけるんじゃないかしら? フローラも美味しいって言ってたわ」

 職人たちの反応を思い出してクスリとしてしまう。
 フローラもコーヒーを見て固まっていたけれども、一口飲んだら気に入ったみたいだったわ。

 そのあとフローラが文献を調べたら、実際こちらにも入ってきたことがあったらしく実在する飲み物だとわかった。

 けれど、この当時は受け入れられなかったみたいね。

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