婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
 ブルーバーグ家が経営するリヴェール商会では食品関係はほぼ扱っていない。地産地消で自領の物を扱うくらいで、規模も大きくない。
 
「専門外なのは承知の上だったんだろうが、度胸はあるな。婚約解消の原因になった娘の実家だからなあ。迷惑かけたと思っているならば、関わらないようにするのが普通だろうに」

「そうですわよね。慰謝料も断りましたしね」

「ああ」

 ローレンツは一息つくようにコーヒーを飲み干した。

 当主である男爵からの謝罪は受けたけれど、それで十分だったのよ。

 土下座までされての謝罪と慰謝料についても十分な額を提示されたし、終始誠実な対応で好感の持てるものだった。

 男爵には言えないけれど、こちらは願ったり叶ったりで何も言うことはなかったから、慰謝料については考えていなかった。逆に謝礼をあげたい気分で応対したのよ。

 そんなことは口が裂けても言えませんけれどもね。

「テンネル家とも取引はあったはずだが、是非にとうちに持ってくるのだから、何か思うところもあるのかもしれないな」

 椅子の肘掛けに腕を置くと頬杖をついて黙ってしまったわ。何事か思案しているのでしょう。

 それにしても、男爵から仕事を引き継いだ嫡男はまだ若かったけれど、年齢に似合わない落ち着きがあり堂々としていた。

 話を聞けば一年の半分は外国を回っているという。

 取引で外国人と渡り合っているせいなのか、会話もユーモアもありながら、巧みで理路整然としていたわ。
 当主も貫禄と品格のある人だったから、父親に似ているのかもしれない。
 
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