素直になれない…
1年前。
ちょうど奏多たちの結婚が決まった頃、俺は少しスランプ気味だった。
スランプとはいっても何か大きな事件があったわけではない。
小さなミスが重なったり、本社の取締役との間で意見の違いがあったり、仕事をしていれば誰にでも起きる些細なことだ。
ただ、入社以来ずっと海外にいて戻ってきてからも自由奔放にふるまいながら、それでもきっちりと結果を残す奏多を見て触発されたのも事実。
それに、平石のおじさんの計らいで人よりも早く役職に就いた俺には、それなりの実績を残そうとする焦りもあった。
スランプを脱しようと一心不乱に働き、会社に泊まり込むことも珍しくなかった。
そんな時、俺は藍に出会った。

いつものように会社の仮眠室で休んでいたところに忍び込んできた女。
月明かりの中ではっきり顔を見ることはできなかった。
俺がいることに気づいた後も平気で菓子や飲み物を広げる様子に、
「会社だぞ」
と注意したら、
「悪いの?」
と言い返され、変な奴だと思った。
この時、俺はこの女に興味を持った。
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