エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
およそ一時間に及ぶカンファレンスが終わり、それぞれ立ち上がる。
麻酔科の医師と話しながら部屋を出ていく雅史の背中を見送りつつノートパソコンをシャットダウンしていると、脳神経外科病棟の看護師長、白石沙月が声をかけてきた。
「海老沢さん、神楽先生の秘書がすっかり板についてきたね」
沙月は楓よりも四歳年上の三十歳。気立てのいい美人で、患者からの評判もいいと聞く。
楓が医事課からの異動で雅史の秘書になってから、なにかと気にかけてくれる優しい先輩だ。
「そうだといいのですが」
秘書歴は一年。板についた実感はまだない。
彼の動きを予見して職務をこなそうと常に気を張っているが、出遅れる対応もある。
「うん。今のカンファレンスだって、神楽先生が『海老沢さん』って名前を呼んだだけで、なにを求めているのかわかったんでしょう? そういうの、阿吽の呼吸っていうのかな」
「いえいえっ、そこまでは極めてないです。もっと先読みして神楽先生の負担を軽くしてあげられたらと思うのですが」