エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
恐縮しつつ返す。
将来この病院を背負って立つ雅史は多くの患者を抱え、その重責は楓の想像以上に違いないから。
先ほどのカンファレンスでは、どういった治療を予定しているか事前に確認する時間があったため、雅史の要求に即座に反応できただけだ。
当初は医事課で受付業務を担当していたが、雅史の医療秘書が急きょ退職となり、そのポジションに就いた。大学時代に秘書検定の準一級を取得していたのが人事担当の目に留まったのだろう。
院内の事務職とはいえ、医事課と秘書とでは業務内容が違う。受付は主に患者とのやり取りがメインだが、医療秘書はより医師に近いため、特に苦労するのが医療用語の多さ。
受付ならどうにかなった知識の浅さを懸命に補っている段階である。
「謙虚なところもよし! だけど神楽先生はだいぶ助けられてると思う。前任者は神楽先生よりずっと年上で扱いづらい感じだったし。プライドばかり高くて鼻持ちならないっていうのかな。まぁ若い子を連れてきて、先生に夢中になって仕事が疎かになるよりはいいのかもしれないけど」
沙月の言葉にドキッとせずにはいられない。じつは、楓は密かに恋心を募らせているひとりである。