初恋は海に還らない
気付いたら、いつの間にか洸の店の前に辿り着いていた。湿度も気温も高く、とても蒸し暑いのに、私の身体は何故か冷え切っていた。
『paradise』の重いドアを開く。いつも通りのルーティンだ。ただ、いつもと時間が違うだけ。
中を覗き込むと、初めて洸に出会った時に嗅いだ煙草の匂いが強く香った。
のろのろと下げていた視線を店内に向けると、私がいつも窓を開け、読書をするソファーに洸が座り、窓の縁に手を掛け煙草を吸っていた。
ドアがガチャリと音を立てて閉じ、洸がこちらを振り返る。