片恋リグレットに終止符を.
「中学の時、嘘をついた。…菜々のことが好きだったのに、あんな……ひどいこと言って」
菜々の笑顔が好きだった。
どんなことにも興味津々で、珍しいものを見るたびにわくわくしているような、楽しいような、そんな子供みたいに笑う顔が好きだった。
「本当にごめん」
あの日の翌日、学校に来た菜々の目は真っ赤に腫れていた。
ぜんぶを踏みにじって、泣かせたのは俺だった。
謝るチャンスを何回も逃した。
「うん、あの時はつらかった」
静かな声が胸の内を震わす。
どんなことでも責められる覚悟はできてる。
「なんとなくさ、あれは碓氷くんの本心じゃないって思う自分がいて。それでも目の前でかわいそうなだけだって言われたのはさすがに傷ついた」
「ごめん」
そんな理由で一緒にいてほしかったんじゃない。それくらいちゃんと理解してたはずだった。自惚れでも何でもなく、きっと、あの頃の菜々の心が誰よりもわかっていたのは俺だった。そして、わかっていたのに自分を守る道を選択してしまったのも、俺だった。
「けどさ、私ね、あの日たくさん泣いたけど、だけど……悔しいくらい、楽しかったんだ。碓氷くんと過ごした時間ぜんぶ、避けられて1人ぼっちだったあの頃の私の宝物だった」
「っ…」
なんで俺に笑いかけれるんだ。
俺は…。
俺の方が、宝物だった。
親の期待に応えるのに必死で、周りのやつらにバカにされないように必死で、疲れていた日々のなかで、菜々といる時は無理をしなくても良かった。思い出し笑いが出てくるほど、たくさんの笑顔をもらった。菜々の隣にいる俺と、俺の隣にいる菜々が、なによりも好きだった。
「そんな顔しないでよ。人ってさ、成長するんだよ。弱虫だった私も、いろんな経験をして、いろんな考え方の人に出会って、少しずつだけど自分に自信が持てるようになったの」