妖怪の妻になりました
二章
 それは、私が一通りの家事を終えて物語に没頭していた時。外からばさり、という一際大きな音がした。その音で、現実に引き戻される。

 そのまま本に視線を戻そうとした時、こんこんと戸を叩く音がした。驚いて肩が跳ねる。……まさか本当に誰か来るとは。

 息を潜めて出方を伺っていると、よく通る男性の声が聞こえる。

「いるかい、青行燈」
「……?」

 あれ。彼の名と家を知っているということは、人間ではない。しかも、無事に結界に足を踏み入れているのだから彼の知人ということになる。

 よっぽどの事でない限り出なくていい、とあの人は言っていたが、これは「よっぽど」の範疇(はんちゅう)に入るだろう。用事があるなら、取り次ぐなり何なりしなければ。
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