社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 耳の後ろ、首筋、肩、わきの下、二の腕……と上から下へ丁寧に丁寧にくるみの身体を泡で包んで、ふんわりと柔らかな胸の膨らみをなるべくいやらしくないように洗ったつもりの実篤(さねあつ)だったのだけれど。

「んっ」

 胸の先端でツンと立ち上がった愛らしい乳首に指先が触れた瞬間、くるみが小さく(あえ)いで瞳に生気を宿したみたいに戻ってきてくれた。

 そうして、そんなくるみのその反応に、実篤の息子が反応しないわけがなくて。
 それがかなり気まずく感じられてしまった実篤だ。

「ふ、ぇっ……? さ、ねあつ、さ……?」

 くるみの視線が、今度こそちゃんと焦点を結んで実篤をとらえて。
 ゆらゆらと視線を彷徨(さまよ)わせてから――恐らくは実篤の下腹部の状態も含めて――現状を把握するなり「キャッ」と小さく悲鳴を上げてその場にうずくまってしまった。

「くるみちゃん、平気!?」

 石鹸まみれの身体でぬるんっと実篤の手をすり抜け、滑り落ちるみたいにくるみが床へ尻餅をついたから。
 実篤は慌ててくるみの横にひざをついた。
 だが、その途端慌てたように真っ赤になったくるみに視線を逸らされて、双方ともに一糸まとわぬ姿だったのがまずかったか、とようやく思い至った実篤だ。

(いや、それ以前に俺の状態がまずかろうよ)

 ――傷ついたくるみちゃん相手になに欲情してんだよ。バカなのか⁉︎と思わずにはいられない。

「……ごめんっ。俺……」

 せめて腰にタオルぐらい巻いておけば良かったと思ったけれど後の祭り。

 耳まで赤くしたくるみが「うち、うち……」とごにょごにょ口ごもるのを見て、実篤(さねあつ)はここらが潮時だな、と判断する。

もう(はぁ)大丈夫そうじゃけん、俺、先に上がるね。くるみちゃんはお湯が溜まったらしっかり(ぬく)もってから出て来んちゃい。その間に俺、くるみちゃんが着られそうな服とか用意しちょくけぇ」

「あ、あのっ、実篤さんっ」

 風呂の湯が溜まっていないことで、実篤がまだ湯船につかっていないことに思い至ったのだろう。
 くるみが慌てたように呼び掛けて来たけれど、実篤は振り向かないままにひらひらと手を振って風呂場を後にした。


***


(やばかった……)

 くるみの目に生気が戻ってきた途端。
 ぐわりと息子が元気になってしまったことを、実篤は悔やまずにはいられない。

 どう考えても、傷ついたくるみに対して性的欲求をぶつけるのは間違っているではないか。

 だから誓ったのだ。

 いつだって実篤はくるみを抱きたくて抱きたくてたまらないけれど。
 彼女がして欲しいと求めてくれるまでは決して、自分から手を出すような非道な振る舞いだけはすまいと――。



 外はまだガタガタと強風が家を揺らしていて。
 雨も未だに弱まる気配がない。

 つい今し方、危険な目に遭ったからこその種族維持本能なのかも知れないが、くるみが風呂から出てくるまでに何とか――。
 この凶悪なまでに張り詰めた下腹部の(たかぶ)りを(しず)めて、彼女が着られる服を用意せねば、と思った。


   『嵐の夜の誓い』END(2023/01/07-01/08)
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