社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 どんな格好をしているのかと皆が注目したくるみだったけれど、ロングコートに身を包んだ彼女は、パッと見何の変哲もない普通の服を着ているようにしか見えなくて。

 強いて言えばいつもパンツルックに運動靴が多いくるみが、今日は黒いハイヒールを履いていることにちょっぴり違和感を感じる程度。

 あとは配達時に制服のように身につけている三角巾とエプロンがないのも違うと言えば違うけれど、本当にそれだけ。


(もしかして仮装させられたん、俺だけ!?)

 くるみの姿を見た瞬間、思わず心がざわ付いてしまった実篤(さねあつ)だ。

 田岡や野田も実篤同様に「おや?」と感じたのか、あからさまにがっかりした様子で肩を落とした。


 そんな実篤ら三人を置き去りに、くるみが実篤をじっと見つめて。

「実篤さん、その格好、すごく(ぶち)素敵です。やっぱり〝私〟の見立ては間違(まちご)うちょらんかったですね」

 田岡らがいるからだろうか。
 二人きりの時は「うち」と言う人称を、他所行きの「私」に変えて告げられた言葉に、実篤はそれだけではない違和感を覚える。

(くるみちゃん、……ひょっとして怒っちょる?)

 そう感じたのは気のせいだろうか?
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