君が夢から醒めるまで
12
嘘で覆われた俺の世界が真っ白なものへと変わった。全ての真実が俺の化けの皮を剥ぎとり、そしてばあちゃんもその仮面を外した。そうするとその空間は一気に空気を軽くする。時折吹く風が鳴らす風鈴の音を蝉の鳴き声がかき消し、突然夏が俺たちの前にやってきた。
「匠真、胸に手をあててごらん」
そう言ってばあちゃんは自分の胸に手をあてた。俺もそれに倣って右手を胸にあてる。いつもより鼓動が早い気がする。作り上げた世界の突然の崩壊にまだ追いついていなのだろう。
「その胸の中に浮かんできた人の笑顔を守りなさい。あなたは人を幸せにできる。そしてあなたも、幸せになれる。だから自分の心に正直に生きて。それが、ばあちゃんの幸せだよ」
今までで一番優しい笑顔をするばあちゃんが俺の瞳に映る。優しくて温かくて、俺なんてすっぽりと包み込んでしまうような、そんな笑顔だった。
置かれたアルバムはこばれ落ちた涙によって端が少しふやけ始めている。それをぼんやりと眺めながら一度鼻を啜り、今一度大切な人に伝えたい言葉を探す。
聞こえないように大きく息を吸い込んだ。そうでもしないと、また涙が出てきそうだったから。
「ばあちゃん、ありがとう。ずっと傍にいてくれて、俺のことを想ってくれて、本当にありがとう。俺に幸せを与えてくれて、たくさん愛してくれて、ありがとう。——それと、ごめん。たくさん嘘をつかせて、ごめんね」
無意識に入っていた力でふやけ始めていた表紙の端がちぎれてしまった。それを見て少し可笑しくなる。笑い出しそうな俺にばあちゃんは「頑張れ」と言った。
「頑張れ、匠真」
ありきたりなその言葉は俺の背中を押してくれた。優しい声は体を浸透して俺の中に溶けていく。これからもこの声を聞いていたい、そう思った。そしてそのとき、隣にいてほしいと思う人が俺の胸の中にいる。
家を出るとき、ばあちゃんは「行ってらっしゃい」と軽く背中を叩いた。俺がそれに笑顔で応えるとばあちゃんも笑顔で頷いた。
「行ってきます」
帰ってくることを約束したその家に別れを告げて、俺は真っ白な世界へと一歩踏み出した。