恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
気に入らない

ここに居たらいい




───────────────────




『暁くん!』



夕方,自販機の取り出し口に手を入れた俺の耳に届いた,嬉しそうな声。



「愛深……今帰るとこ?」

「そうなの! 陽菜……友達はデートらしくて,飲み物でも買って帰ろうかなって」



会えて嬉しい。

言外に伝えてくるその笑顔。

昼だって会ったのに。



「……そ」



背を向けて歩き出す。

愛深は慌てて水を買い落とすと,俺の横に並んだ。

今,帰るとこ?

なんて,わざわざ尋ねた自分が信じられない。

ちらりと愛深を見る。

愛深は少しも気付かない。

自然に目が行くようになった自分を自覚して,ご機嫌にまっすぐ前を見る愛深から目をそらした。

その愛深の動きが,電波をうまく受信しないテレビのように鈍る。

……愛深?
< 58 / 150 >

この作品をシェア

pagetop