恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
気持ちが引っ張られるまま愛深を見ると,もう前は向いていなかった。

俺が立っている側の斜め下を向いて,息を殺すように黙っている。

口を開きかけた時,向かいから歩いてきていた人が,愛深にぶつかるようにしてすれ違った。

なに,あいつ……

俺より身長が低く,愛深と同じくらいの背丈。

何か言われたのか,存在事態が嫌なのか。

すれ違う寸前,愛深が頭を細かく揺らしたのが見えた。

気付いているのかいないのか,愛深は半歩俺に寄って。

無表情で,その後はもう,前を向いて歩いている。

気にしないと言い聞かせているような,慣れていると言うような……

冷静と言うより,諦めていると言うような顔だった。

何も言わないのは,少しでも隠したい気持ちがあるからだ。

でも



「どしたの?」



愛深には早い。

だめだよ。
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