人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

6

「……それにしても懐かしかったな」

 叶恵が髪を拭きながらリビングに入ると、太郎が絹江に言っていたのが聞こえた。

「何が懐かしかったんですか」
「ああ。俺が昔住んでたところの近くにも商店街があったから、懐かしかったって話してたんだ。なに? ちょっとは俺に興味を持ってくれた?」
「そういうことにしておいてあげますから、早くシャワー浴びてきてください。風邪ひいたら大変ですから」
「そのときは叶恵さんが看病してね」
「イヤです。家でまで仕事させないでください」
 
 太郎が吹き出したことで、きちんと冗談を受け止めてくれたことが分かる。
 だからきっと、太郎と話すことを楽しいと思えるのだ。
 太郎がシャワーを浴びたあとは3人でおやつを食べ、夕食の準備に取り掛かる。
 ともすると太郎は叶恵よりも手際が良く、叶恵は絹江に呆れられたり太郎に苦笑されたりしながらも、3人で楽しく鶏肉と夏野菜を揚げ、サラダを作った。
 昨日と打って変わって今日の食卓はにぎやかで、笑い声で溢れていた。
 太郎が冗談を言って、叶恵が突っ込み、國吉と絹江が笑う。
 かと思えば太郎と國吉が結託して叶恵をからかい、反発する叶恵を絹江がなだめる。
 そのうち叶恵の言葉から完全に敬語がなくなり、夕食が終わる頃には完全に太郎を蓮だと意識しなくなっていた。

「ねえ、叶恵さん。来週の休みはいつ? 叶恵さんが休みの日に、みんなで叶恵さんのご両親のお墓参りに行こうよ。俺、車出すから」
「そんな、悪いよ」
「俺が行きたいからいいの。それにもう、國吉さんと絹江さんはその気だよ」
「いつの間にそんな話になったの?」
「たった今。叶恵さんが電話してる間に」

 仕事の電話がかかってきて話していたのはたったの数分だ。
 そんなわずかな時間で勝手に話が決まっていることに呆れたが、國吉と絹江の嬉しそうな顔を見ると、何も言えなくなる。
 それでもいちおう抵抗してみた。

「おじいちゃんもおばあちゃんも、太郎くんに甘えすぎじゃない?」
「いいじゃないか。太郎くんから言ってくれたんだから。なあ?」
「ねー」

 頷き合う太郎と國吉に、ため息しか出てこない。

「はいはい。分かりました。でも次の休みって来週の日曜日だよ? お盆はとっくに過ぎてるけどいいの?」
「みんなで行けば、いつ行っても2人は喜んでくれるわよ。太郎くんも一緒だから、いつも以上に喜んでくれるかもしれないわね」
「なんだか、太郎くんの方が2人の本当の孫に思えてきた」
「そうなってくれたら、私らは嬉しいがな」

 國吉が叶恵を見て意味深に笑い、太郎が当然のようにその話に乗ってくる。

「俺としては、近々そうなる予定なんだけどね」
「太郎くん、その予定は未定だから、調子に乗らないように。じゃあ私はもう寝ます。おやすみなさい」
「おやすみー。そのうち夜這いに行くから待っててね」
「来なくていいから‼」
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