人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

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 シャワーの音が聞こえてきたのを確認して、絹江が太郎に声をかける。

「叶恵が太郎くんって呼んでたけど、どういうことなの? 太郎くんに気づいたようには見えなかったけど」
「実は……」

 絹江が淹れてくれた熱いお茶を飲みながら、太郎は叶恵に「太郎」と呼ばせるに至った経緯を説明する。

「そういうことだったのね。だったら私たちも太郎くんって呼ぶわね。お父さんと、呼び間違えたらどうしようって話してたからちょうどよかったわ」
「そういえば、國吉さんは?」
「公民館の囲碁サークルに行ってるわ。それで、叶恵とはどうなの?」

 太郎の向かいに座り、興味津々で絹江が尋ねてくる。

「とりあえず今は、俺を山内蓮と思わせないように努力してるところ。でもビックリするくらい、幼馴染みのターくんと山内蓮が結びついてくれないんだよ。かなりの長期戦になりそうな気がする」
「あの子は鈍いところがあるから。でもさっきは、手をつないでいい感じだったわよ」
「あれは雨が降ってきたどさくさ紛れだよ。まあでも手を振り払われなかったから、ちょっとは望みありかな」

 叶恵の性格なら、いやな相手に手をつながれたら、たとえあのような場合でも手を振り払うはずだ。

「そうね。望みはあると思うわよ。行く前と帰ってきたときとで、太郎くんと一緒にいるときの叶恵の表情が違ったもの」
「今日は結構会話が弾んだからね。それにしても懐かしかったな」

 20年ぶりに歩いた商店街は、変わった店、無くなった店、代替わりした店と色々だったけれど、全体の雰囲気は以前のままだった。
 そして叶恵も。
 外見こそ20年分成長しているが、全体の雰囲気も、くだらない会話に乗ってくれるところも、生真面目なところも、切なくなるくらい懐かしかった。
 無理やり休みを取って叶恵に会いに来たのは間違いではなかったと、太郎は心の底から思った。
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