人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

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「あー」

 太郎はそう叫ぶと、手をつないだままその場にうずくまる。

「どうしたの⁉ もしかして、もう遅い?」
「違う。嬉しくてたまらなくて今すぐ抱きしめてキスしたいのに、それができないこの現状がもどかしい」

 確かにここは商店街を抜けたとはいえ、まだ明かりが届く距離だ。
 だから叶恵は現状でできる精一杯をしようと、太郎の隣にしゃがんで握ったままの太郎の手の甲にそっと口づけた。

「……そうやって、俺を煽るのはやめてくれる?」
「え? ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど。……本当に、叶恵さんの無意識はタチが悪いね」

 太郎の言葉の意味が分からずにキョトンとしていると、苦笑とともに立ち上がった太郎に手を引っ張られる。

「さ、早く帰ろう。明日も仕事でしょ」

 2人きりでいる時間を少しでも引き延ばすように、今までよりゆっくり歩く。

「あ、そうだ。叶恵さん。今度の土日は休みって言ってたよね?」
「うん。2日とも完全に休みよ」
「だったら明後日の金曜の夜から日曜の夜までの時間、俺にちょうだい? とりあえず金曜日、仕事終わったら迎えに行くから、間に合いそうなら夕陽を見に行こう。あ、泊まりの用意はしといてね。言っとくけど、高崎家に帰るつもりはないから」
「あ、う」

 その意味に気づいて、頬が熱くなる。
 泊まりということは、そういうことよね?

「なんだよ、その返事は。もしかして、イヤらしいこと考えた?」
「いや、えっと。あの、そんなこと、ないわけじゃないけど……」
「早く週末にならないかな。今までの俺の我慢のツケ、全部払ってもらうよ」

 太郎はオロオロする叶恵をのぞきこんで幸せそうに笑いながら、詳しく聞くのをためらうことをさらりと言ってくる。
 幸か不幸かそのタイミングで家に着き、玄関の鍵を開けていると、後ろからギュッと抱きしめられて耳元でささやかれた。

「俺のこと好きになってくれて、本当にありがとう」
「私の方こそ、好きになってくれてありがとう。待っててくれてありがとう」

 太郎はクスッと笑うと、叶恵の頬にそっと口づける。

「今日のところはこれで我慢してあげる」
「ありがとう。そういえば、ひとつだけ気になってること聞いてもいい?」
「ん? 何が気になってるの?」
「太郎くんの本名。蓮って本名なの? このまま太郎くんって呼ぶのもヘンよね?」
「そうか。そうだよね。んー、俺の本名はね、今はまだ内緒。明後日、ベッドで教えてあげるよ、叶恵」

 最後の一言を極上の声でささやかれ、腰が砕けそうになる。
 抱きしめられていなかったら、本当にしゃがみこんでいただろう。

「太郎くんのその声、本当にヤバい。お願いだから耳元でささやかないで」
「ふーん。叶恵さんはこの声に弱いんだ? いいこと聞いたな」
「え? 何するつもり?」
「何もしないよ、今はね。ただいまー」

 腕をほどいて意味深に笑うと、太郎はさっさと家に入っていく。
 高鳴る鼓動を深呼吸でどうにか治めて、叶恵も慌てて後を追った。
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