独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 だから羞恥に身構えていたのに、奏一に結子をからかう様子はない。

 触れるだけのキスが終わると、奏一はすぐに顔を離した。そして照れたように目を伏せると、長い腕を伸ばして自分の腕の中に結子の身体をぎゅっと抱き込んでしまう。

 身長もそれなりに高いが、腕も長いし身体も結子より大きい。

 紛れもない男の人だ。それに香りも――結子の知らない、男性ものの香水の香りがする。お風呂に入ったはずなのに、こんなにいい匂いがするなんて変なの。なんて。

「ねえ……キスだけじゃ、なかったの……?」
「……ハグは夫婦じゃなくてもするでしょ」

 結子が逃げないようにするためか、しっかりと、けれど優しく抱きしめられると、なんだか心地いいと感じてしまう。ぽんわりと眠くなって、触れ合った体温が心地いいと思ってしまう。

(……嫌じゃない、んだ……私)

 甘やかな触れ合いなんて想像していなかった。夫婦になったら、苦手意識のある奏一の夜の相手をしなければいけないと思っていた。

 けれど実際にはそんなことはない。奏一はもう少しだけ、結子に覚悟を決める猶予を与えてくれるらしい。

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