独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
音もなく柔らかい唇が頬に触れる。口付ける、というよりも本当にほんの少し『触れる』だけの感覚。
至近距離でじっと見つめ合う。彼の黒い瞳は月のない夜空のようだ。真っ黒く濡れた新月の夜に、星の煌めきに似た光がきらきらと揺らめいている。眩しい――まるで結子だけに恋焦がれるように、暗闇の中で一等星が燃えている。
その瞳が閉じられていく様子を見つめると、結子も何かの魔法にかかったようにゆっくりと目を閉じた。
吐息が掛かるほどすぐ近くに奏一の存在を感じる。ふわふわした心地に酔って、身体が燃焼したみたいに熱を持つ。甘い微熱が全身を駆け巡る。
「ん……」
唇が触れ合った瞬間、想像よりもずっとずっと柔らかい感触に思わず小さな声が出た。まるでキスが気持ちいいと言っているような、ちょっとだけ高くて甘い鼻声が零れてしまう。
そんな声が出たら、感じてるの? なんていじわるにからかわれると思っていた。男性と触れ合った経験がないことを馬鹿にされて、笑われるかもしれないと思っていた。
「はー……ダメだ、かわいい……」
「……っ」