独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 結子が隣にいる奏一に声を掛けるが、返ってくる言葉は先ほどから全く覇気がない。

 それは結子の仕事が終わり、問題が山積している奏一を残して先に帰宅し、彼の好物を用意し、お風呂に入って嫌な気持ちを綺麗さっぱり洗い流した後も変わらない。帰宅してから奏一はずっと沈みっぱなしだ。

「奏一さん? 元気ないの……?」

 彼は自分で用意したココアのマグカップに一度も口を付けていない。気落ちしているのは明らかだった。

「奏一さんが悪いわけじゃないわ。人事部の定期ヒアリングでも問題は見つからなかったって証言があったんでしょ?」
「そう、だけど……」

 イリヤホテルグループでは職場環境の問題点を把握するために、人事部が定期的に全スタッフからヒアリングを行っているという。

 だがそこでも上野の問題行動は洗い出せなかった。上野の手癖の悪さを知る者は、ブライダルサロンどころかエメラルドガーデン内に一人も存在しなかったのだ。

 やはり腐っても責任者。仕事に影響が出ないタイムテーブルで事に及ぶし、防犯カメラにも一切映らない。自分の部署だけではなく他のスタッフの動きも把握しているからこそ、半年の間誰にも知られずに不埒な行為を続けてこれたのだろう。

 それほど狡猾なやり口だった。同じ部署の人ですら気付かなかったのだ。総支配人としてホテル内の全ての管理責任を負う奏一の目が行き届かなかったのも、致し方ない。

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