独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

「部下の不穏に気付けなかったのは俺の落ち度だ。その所為で嫌な思いをした取引先や提携先の人もいるのに、俺は気付けなかった」
「……奏一さん」
「情けないな……本当に」

 もちろん問題が生じた以上、その責任を負うのは奏一だろう。

 イリヤホテル東京エメラルドガーデンは、入谷 奏一の庭だ。そこが利用客や宿泊客、そして働く人々や取引関係のある人たちにとって良いホテルになるか悪いホテルになるかは、奏一の裁量にかかっている。それが『総支配人』という役割だ。

 だから奏一はこれからたくさんの人に頭を下げなければいけないし、沢山の人に誠意を見せていかなければならない。入谷家の御曹司であることは関係ない。責任者というのはそういう立場の人なのだ。

 けれど、だからと言って奏一がすべて一人で責任を取って、すべて一人で抱え込む必要はない。

 奏一にはたくさんの優秀な部下がいる。イリヤホテルグループの他の経営陣もいる。同じ立場で同じ役割を担う、頼れる双子の兄もいる。奏一には困難を乗り越える仲間が大勢いるのだから、一人で落ち込む必要はないのに。

「……結子」

 はぁ、とため息を吐いた奏一が、じっと結子の瞳を見つめる。悲しそうな目で、苦しそうな表情で、辛そうな声で、縋るような仕草で。

 隣に座る結子の名前を、かすれた声で呼ぶ。

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