独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

「結子」

 そんな奏一はエントランスの自動ドア前に突っ立ったままの結子に気が付くと、すぐに明るい笑顔を見せてくれた。

 一緒にいた女性にじゃあ、と適当な挨拶を残すと、彼女と離れてそのまま結子の傍に小走りにやってくる。四つも年上の男性なのに、その姿はなんだか仔犬っぽいと思って一瞬笑ってしまう。

「ごめん、待たせた?」
「……ううん」

 傍にやってきた奏一に訊ねられ、横に小さく首を振る。結子の返事を聞いた奏一は『そっか、よかった。じゃあ行こうか』と呟きながら胸ポケットについた総支配人のネームプレートを外している。ここからは仕事ではなくプライベートの時間になるからだろう。

 だがそんな奏一に声を掛けられても、結子の脚はその場からすぐには動かなかった。

「奏一さん。私やっぱり、今日は帰ろうかな」
「……え」

 エレベーターホールに向かって歩き出そうとする奏一に告げると、彼が一瞬困ったような声を出した。

 結子はやはり、どうしても気分が乗らなかった。せっかくのディナーなら楽しく過ごしたいのに、奏一に対してのもやもやとした気分が拭えない。

 これはもう奏一が悪いのではない。結子の心の問題だ。だからこのまま彼と外食をしても、ただ奏一に気まずい思いをさせてしまうだけのように思う。

「大丈夫? 具合悪い?」
「……ううん。具合は悪くないけど……」
「じゃあ、少しでいいから付き合って?」

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