捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
けれどレオンは、私の言葉や笑みに誤魔化されることなく、心底心配そうに気遣ってくれる。
「もしかして、昨夜、無理をさせてしまったから、身体の具合が悪いんじゃないのかい? もしそうなら遠慮せずに言って欲しい。ノゾミにもしものことがあったら、僕……どうしたらいいか」
その表情は、苦しげに歪んでいて、今にも泣き出してしまいそうだ。
それは、レオンを助けたあの日からこれまで三ヶ月半という時間の中で、私のことをよく見てくれていた証に他ならない。
私の僅かな機微も逃すまいと、事細かに見てくれているからこそだろう。
そんなレオンが、私のことを騙しているはずがない。
レオンのお陰で、そう思い直すことができ、王都で知り得た情報のせいで、抱いてしまってた疑心をなんとか払拭するためにも、前だけを見据えようと。
「レオンってば大袈裟だよ。慣れない旅でちょっと疲れてただけだから大丈夫。休憩したらこの通り元気もりもりだし。だからそろそろ行こう?」
未だ心配そうに私のことを見つめたままでいるレオンに、そう言って立ち上がろうとした矢先。
風もないのにザワザワと木々がざわめき、茂みの中から突如現れた、真っ黒なローブを纏い馬に乗った六人の男らによって、行く手を阻むようにしてぐるりを囲まれてしまっていた。
「ノゾミ、何があっても僕の傍から動かないで。いいね?」
「う、うん」
その時には、素早い身のこなしで私のことを背に隠すようにして、前に進み出ていたレオンに潜めた声で動かないようにと告げられ、私は恐る恐る震えた声で返答しながら思考を巡らせる。
この男たちの目的は、追放された聖女である私を捕らえるためだろうか。
それとも、密入国者であるレオンのこと追ってきたのだろうか。
思案すること、おそらく数秒ほどのことだったろうと思う。
私のことを背でかばうようにして立っているレオンの正面で、馬上から鋭い眼光でこちらを見下ろしている男が開口一番放った声により、目的が明確になった。
「その女に用がある。こちらに渡してもらおうか」
それだけじゃない。
声を放つと同時に、男が腰に携えていた剣を抜き振り翳す。
そうしてレオンの眼前へと切っ先を突きつけてきたことにより、一気に緊張感が高まった。
辺りには、常春に似つかわしくない、ピリピリと張り詰めた空気が漂っている。
私は無意識に、レオンの背中にギュッとしがみついていた。
「大丈夫だよ。僕が命に代えても必ずノゾミを護ってみせるから」
その時、かけてくれたレオンの言葉に、私は目が覚める心地がした。
なぜなら、こんな風に身を挺して護ろうとしてくれているレオンが、私のことを騙しているわけがない。そうはっきりと確信したからだ。