捨てられた聖女のはずが、精霊の森で隣国の王子に求婚されちゃいました。【改稿版】
同時に、これ以上レオンには迷惑はかけられない。
かといって、私には何もできはしない。
だったらせめて邪魔にだけはなりたくない。
そんなことを思案していると、男に返事を返すレオンの地を這うような低くて冷ややかな声音が耳に飛び込んできた。
「嫌だと言ったらどうする?」
その声が辺りに響き渡った刹那。私たちを取り囲む男たちが殺気立ち、さっきの男から再び声が放たれると同時。
「だったら力尽くで奪うまでだ。かかれッ!!」
決戦の火蓋が落とされたのだった。
物凄い気迫とともに正面の男がレオンに向けてまっすぐに剣を振り下ろしてくる。
ーー危ないッ!?
そう思っても、余りの恐怖に身体がすくんで身動きがとれない。思わず目を閉ざしてしまう始末。
すると、「ぐああッ!」という男の悲痛な呻き声が聞こえてくる。
驚いて目を開けた先には、馬から崩れ落ちていく男の姿が映し出された。
レオンはいつしか狼の獣人の姿となっていて、私のことを背でかばいつつ、次々に襲いかかってくる男らに向けて、魔法で出したのであろう立派な剣を振るっている。
どうやらレオンは、馬術をたしなんでいるだけでなく、剣術にも長けているようだ。
ーー切られてなくてよかった。
ホッとしたのも束の間。
いくら剣術に長けているようだといっても、私を背でかばいながら、残る五人の男を相手にするのは、どう考えても不利だ。
……何かいい手はないだろうか?
思案しかけていた刹那、一人の男が私めがけて切り込んできた。
それに気づいたレオンに、一瞬、隙が生じてしまう。
それを敵である男が見逃す訳がなかった。
レオンめがけて剣が振り下ろされる。
ーー絶体絶命の大ピンチ。
かと思われた、その瞬間、何処からともなくつむじ風が吹き荒れ、瞬く間に竜巻となり、巻き込まれた男たちが悲鳴とともに一人残さず空の彼方へ吹き飛ばされていく。
一瞬の出来事だった。
やがて静まり返った辺りには、突風によって散らばった木の葉や枝だけが残されている。
一体全体何が起こったのかさっぱりわからない。
レオンも私も難から逃れられたものの、驚きすぎて唖然としてしまっている。
そこに突如、さっきより規模の小さいつむじ風が巻き起こったかと思えば、すぐに消え去り、そこに現れたのは、驚くことに、昨日会ったばかりの乞食のお婆さんだった。