秘書室の悪魔とお見合いをしたら〜クールな秘書と偽装結婚することになり、いつの間にか愛でられていました〜

「昨夜ディナーのときに、グレンとの会食の件を話したら、祖父がとてもサクラを気に入っていてね――その流れで、祖父と共に、ミスター・サカエに申し入れてきたんだ。『彼女の力を我が社に貸して欲しい』って」

 心臓が暴れ出した。

 この言い方。みなまで言わずとも意味はわかる。
 つまり、ゆくゆくLNOXを背負い、グレン氏との取引の主導となる〝クリスの専属秘書として〟という意味だ。

 会長が、気後れすら感じる引き抜きの申し出に、なんて答えたかはわからないけれど、親友でもあられるクリスのお爺さまから頭を下げられたら、きっと、無下にはできないだろう。

 私は、もちろん、本社(ここ)を離れたくない。

「最も、サクラには偽装結婚(この件)を突きつけて拒否させるつもりはなかったけど……うちでは頑固な祖父が絶対的な決定権を持っている……。これをサクラの返事ではなく――チアキが、どうにか攻略するのはどう?」

 一瞬、脅迫めいた言葉にびくりとしつつも。
 智秋さんが……? 意識がそちらに流れる。

「祖父は一度決めたことは、なかなか崩さない……ましてや、信頼関係のない他人が突然意見をしたところで、警戒されることのほうが多い――まぁ、もう動き出している以上、キミがやらなきゃ自然とサクラはウチに来ることになるけど、どうする……?」
 
 クリスはきっと、はじめからこの証明という名の〝勝負〟を挑みに、見つけた私のもとへきたのだろう。ふたりでいるのを察して。

 とはいえ、どうすると尋ねながらも、その質問には、明らかに選択肢がない。
 秘密を発露してしまった私には、ここでの発言権や拒否権がないだろう。
 だけど、私たちが一緒にいるための答えは……ひとつだけだ。
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