秘書室の悪魔とお見合いをしたら〜クールな秘書と偽装結婚することになり、いつの間にか愛でられていました〜
「つまり――私が、クリスの祖父――ダニエル会長へ、よりよい代理案をプレゼンしなければ、桜さんが異国であなたのお付きになってしまうと?」
智秋さんは、焦燥に揺れる私とは真逆の、先程と変わらない、落ち着き払った静かな声で、状況確認をはじめる。
「〝俺〟を試したいのは理解しましたが、この状況、証明ではなく脅しともいえるのでは……?」
冷静で、それどころか薄い唇に弧を描き、
だけど、眼鏡の奥の瞳にはいつもとは違った鋭さを滲ませながら、クリスを逸らさず捉えている。
「せめて〝勝負〟と言って欲しいな。――それに言っただろう? 僕はこのままじゃキミを許せない。なんならもっと引っ掻き回したいとも思うし、ミスター・サカエにキミたちのことを話してもいいんだ」
クリスの方も崩れない。いつも穏やかなグリーンアイには、今日は強い強い光が宿っている。
そうやって見つめ合って、ふたりの間でバチバチと何かが光って散ったあと、智秋さんが鋭く切り替えした。
「――やり方には釈然としないが、ここまで状況を整えられて、受けないわけがないでしょう。……ダニエル会長を納得させ、あなたには……ひとりで母国へ帰ってもらいます」
変わらぬ自信を見せる智秋さんと、余裕たっぷりに笑うクリスを交互に見ながら、私は圧倒されて、静まり返ったフロアでどうすることもできなかった。