魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 ミーナとヴィオルドの言い合いが続く中、店の外から馬車の停まる音が聞こえた。コツコツという足音が聞こえれば、ベルが音を立てて店の扉は開く。小間使いの男性が扉を手で支えている。その横には、貴族令嬢だと思われる派手な少女が一人。

「ごきげんよう、ヴィオルド。アナタのこと探し回ってよ?」

 つり目がちの少女が(あか)い巻き毛を揺らしながらヴィオルドに話しかける。翡翠(ヒスイ)のような緑の瞳を見たところ、彼女がヴィオルドを気に入っているということは容易に推測できた。

「こんにちは、エルシニア嬢。ここはエンテロコリティカ家の令嬢が来る店ではありませんよ」

 当の本人――ヴィオルドは一瞬顔を引きつらせたあと、うやうやしく言葉を返した。丁寧だが、それ故機械的にも感じられる。しかしエルシニアは気づいておらず、彼のそんな言葉も好意的に捉えている。

 空気に耐えかねた彼女はエルシニアに聞こえない大きさの声で、ヒソヒソとヴィオルドに話しかけた。

「貴方のこと気に入ってるみたいだし、もっと優しくしてあげればいいじゃない。逆玉(ぎゃくたま)輿(こし)を狙えるチャンスよ!」
「俺あのお嬢様、苦手なんだよ。何なら嫉妬でもしてみれば?」

 ヴィオルドは視線を下に落として小さな声で答えた。発散できない不満をミーナへの冗談で解消しようとする。

「苦手なもの一つ発見! で、誰が誰に嫉妬するって? それ誰の妄想?」

 勝ち誇ったように小声で喜ぶ。馬鹿にした表情でヴィオルドに畳み掛けた。彼の方は眉をひそめて黙っている。

「ヴィオルド、聞いてるかしらぁ?」

 入口付近ではエルシニアがヴィオルドに対して何やら語っていたようで、返事のない彼に呼びかけていた。翡翠の瞳が不満げにヴィオルドを見ている。ミーナとの会話で気づかなかったヴィオルドはハッとして、焦点をエルシニアに合わせた。

「すみません、エルシニア嬢。少しばかりボーッとしていまして。俺は仕事に戻りますので、貴女も馬車へお戻りください」
「わかったわ。その前に、その女店員はアナタの何かしら?」
「行きつけの店で顔を覚えられるのは珍しいことでもありませんよ」
「それもそうね。それではまた会いましょう?」
「そ、ソウデスネ……」

 ヴィオルドの返答を聞き満足したエルシニアは、踵を返して馬車へ向かった。鋭い緑の瞳で、彼女を一瞥して。
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