魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 あれから一週間、ヴィオルドはミーナが調合した薬のおかげで悪夢を見ることはなくなっていた。お互い忙しく、その後は会えずに薬の効果についての報告はまだできていない。

 悪夢が去っても罪の意識から逃れることはできなかった。一度夢を通して鮮明によみがえったあの日の光景は、頭から離れることなく彼を責め続けている。気を抜けば死者の幻想に足をすくわれてしまいそうだ。

 上官室で事務仕事を片付ける手を止めて、目頭を押さえる。深く息を吐きながら目を閉じた。窓からは陽光が燦燦(さんさん)と降り注いでいるが、彼のいるテーブルまでは届かない。

 外の空気を吸いに行こうと思った時。上官室のドアから乾いた音がコツコツと響く。ヴィオルドは気だるげに声を出した。

「どうぞ」

 ドアノブを回す独特の音が聞こえたあと、ドルークが彼の顔色を伺いながら覗き込むように部屋に入る。

「ヴィオルド先輩、手が空いたら巡回に行きませんか? 城下に新しいカフェができたんすよ」
「お前……サボる気満々とはいい度胸だな」

 ヴィオルドは呆れたように呟いた。それを受けてドルークは焦りながら取り繕う。

 結果はわかっているはずなのに、いつも同じようなやり取りを持ちかけるのはあの夜以来ドルークが心配しているからだろう。彼にとってヴィオルドは王都警備隊の先輩であるが、人生においてはドルークの方が長い。理由は他にもあることはあるが。

「ヒッ! 違うんですよ。それは誤解です、先輩」
「まぁいいだろう。お前はどうせスイーツ目当てだろ?」
「はい、パンケーキがおいしいって評判なんです」

 軽くため息をついて、剣を腰に差すヴィオルド。彼もちょうど外に出ようと思ったところだったので、良いタイミングだ。甘いものは脳を活性化させるというし、糖分を摂れば論理的思考もできるかもしれない。問題から逃避したいという願望も併せて、出掛けるという結論に至ったが。
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