現実主義者の恋愛事情・王子を一時預かりします  レイと綺麗

「梅酒って、初めて飲みます。
それでお願いします・・」

王子はきれいに微笑んだ。

「あの、ロンデールではなく、
レイって呼んでください。」

王子はそう言ってから、
綺麗の顔を見て、
何回か長いまつ毛をパチパチ
させた。

「はいっ、レイさんは梅酒、
私はいつものレモンサワーで」

注文を取りに来た店員に、
酒の注文と何種類かのつまみを
頼んでいると

王子はスマホの画面と、
綺麗の顔を交互に見ている。

なんで・・
私の顔を見ているのだ????

綺麗がいぶかしげに見ると、
王子は微笑んで質問した。

「あの、あなたのお名前
聞いてもいいですか?」

王子とお話をするのが、
お世話係の務めだ。

綺麗は隣にストンと座った。
それをやっかむ奴はいない。

事前に情報は開示してあるからだ。

下心はない。

「桐谷<キリヤ>と言います」

「どのような漢字を書くのですか?」

「桐は木の種類、タンスの原材料で・・」

王子が首をかしげた。

「ああ、タンスっているのは
服をしまう戸棚で」

綺麗があわてて言うと、
王子はスマホを取り出し
変換して見せた。

「これですか」

「ええ・・谷は英語ならバレーかな」
王子はそのままスマホ画面に
打ち込み、綺麗に見せた。

「これは姓?ですよね。
名前は?」

綺麗はレモンサワーをごくりと
飲んだ。

思わず口が歪んでしまったが、
言った。

「スマホ貸してください。
打ちますから」

<綺麗> きれい

ひらがなで振りをつけたが

「あの、<キリヤ>と呼んでくださいね。
皆もそう呼んでいるので」

ひきつりながら、
綺麗は笑い顔を見せた。

たぶん変顔になっているだろうか・・・

王子は画面をずっと見ていたが、
綺麗に顔を向けて
うれしそうに笑った。

「レイ、ぼくのと同じだ!」

「はは、確かにそうですね。
頭に<キ>がつきますが。

レイさん、
梅酒おかわりどうですか?」

綺麗はサワーをゴクリと飲んだ。

炭酸のシュワシュワが
喉を滑り落ちていく。

こいつを、
早く酔っぱらわせてしまったほうがいい。

こんなきれいな王子様と
差しでお話するのは、
妙に落ち着かない。

「麗って漢字書くのが
難しいですね。」

あたりさわりのない会話の
ネタを探すのは、庶民には疲れる。
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