極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
『衛士は……本当は朝霧衛士っていうの? ラグエルジャパンの社長令息なの?』

 一瞬の沈黙が流れた後、彼が観念したような息を吐いた。

『……そうだよ』

 一度唇をきつく噛みしめて、必死に声を振り絞る。

『なら私が……私が杉井電産の社長の娘だって最初から全部知ってたの?』

 今度はさっきよりも長い沈黙が続いた。皮肉にも今、衛士がどんな顔をしているのかわかってしまう。 

 彼の続ける答えも。

『……ああ』

 覚悟していた。予想もしてきた。けれど目の前が真っ白になって思考が止まる。

『でも未亜、俺は』

『もう二度と会わない』

 頭で考えるよりも先に口を衝いて出た。相手に対してではなく、自分に言い聞かせるようにはっきりと。

『未亜』

『今までありがとう。元気でね』

 一方的に告げて電話を切る。電源も落として、私はその場からさっさと踵を返した。ここに来ることももうない。

 足を一歩踏み出すたびに、大粒の涙が溢れ出す。

 苦しい。胸が千切れそうに痛い。

 次第に嗚咽も止まらなくなり、呼吸ができなくなる。視界まで滲んでまるで水の中に突き落とされたみたい。

 馬鹿な自分。父の言うとおりだ。

『お前が杉井電産の社長の娘だと知って近づく邪な男も多い。お前みたいな世間知らずは、簡単に騙される』

 衛士だけは違うと思った。私自身を見て、愛してくれているって。大好きで、ずっと一緒にいたいと思っていた。でも、それは私だけだった。

 衛士の目的はなんだったんだろう。杉井電産の内部情報を探りたいなら、私たちはお互いに仕事の話はまったくしていない。
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