極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 長年、本社のあるアメリカに留学をしていて半年前に帰国したこと。再びアメリカに戻って数年はラグエルの本社に勤めることなどが書かれている。

 膝から崩れ落ちそうになるのを懸命に堪える。急に黙りこくった私を不審に思ったのか、視線の先に気づいた父が切り出した。

『ラグエルジャパンの息子は、昔から付き合いのある取引相手の娘と結婚するという話だ。今回の帰国もそのためらしい。お前も少しは見習って……未亜?』

 父が訝しげに名前を呼んでくるがなにも反応できない。頭がくらくらして得たばかりの情報を脳が拒否している。

 衛士がラグエルジャパンの次期社長? 結婚? なにが、どうなっているの?

 次々と浮かぶ疑問に私は弾かれたようにその場を駆け出す。

 今にも雨が降り出しそうな暗い空の下、私は衛士のマンションへ向かった。今日、衛士は話があると言っていた。少しだけなにかを期待していたのに、それはあっけなく打ち砕かれる。

 心臓が破裂しそうに痛くて、指先が緊張で冷たい。震える指でインターホンを押すが、まだ約束の時間まで数時間あるからか、応答はなく彼は留守だった。

 他人の空似だったら、実は双子でふざけてみたとかだったら……。

 限りなく低い可能性の選択肢をあれこれ思い浮かべる。でも、きっと現実はそんなうまくはいかない。

 私はドアに力なくもたれかかり、スマートホンを鞄から取り出して、衛士に電話をかけた。意外にも数コールで相手は出る。

『未亜? どうし』

『質問に答えてほしいの』

 強く言いきると電話の向こうで衛士が驚きで息を呑んだのが伝わる。私は、極力感情を押し殺して尋ねた。
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