極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 衛士の正体を知らずに付き合っていたとはいえ、父にとって私のしたことは裏切り行為に映るだろう。

 叱責されるのを覚悟する。

「そうか。なら、この結婚は未亜や茉奈にとっていいものなんだな」

 しかし返ってきたのは穏やかなものだった。

「じーじ」

 ベッドの端から顔を覗かせ、必死に様子をうかがおうとする茉奈の頭を父はそっと撫でる。

「茉奈はまた大きくなったな」

「う、うん。周りをよく見てるから、どんどん言葉もできることも増えてるよ」

 茉奈の父親に関して、もう言うことはないの?

「茉奈、よかったな」

 父は満足そうに、かすかに笑っているように見えた。

 もしかして父は茉奈の父親に関して、知っていたの?

 尋ねたい衝動をぐっと堪え、父を真っ直ぐに見据えた。

「お父さん、だから杉井電産のことは心配しないで、早く良くなってね。茉奈も退院するのを待ってるよ」

 茉奈はその場でぴょんぴょんと跳ねだしたので、抱っこして視界を高くする。

「そうだな」

 病に倒れて、父は幾分か丸くなった気がする。気落ちしているとでもいうのか。

 父には私の結婚のことでやきもきさせたこともあった。会社の行く末と娘と孫の将来。それが一気に解される。

 やっぱり衛士と結婚を決めてよかったんだ。納得する反面どこまでも理屈づける自分が、これは恋愛結婚ではなく政略結婚なんだと言い聞かせているように思えた。
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