極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 思えば、母が亡くなってから父はずいぶんと無理な働き方をしていたと思う。

 当時は忙しい父に腹が立ち、寂しさが勝っていたが、父は父なり会社の全責任を担う社長の立場でありながら私を育てていかなければならないプレッシャーもあったのかもしれない。

 それこそ叔父の奥さんである陽子(ようこ)さんが母親代わりとまではいかなくても、なにかと世話を焼いてくれた。

 父は父で付き合いのある人たちから幾度となく再婚を勧められていたが、頑なに受けなかった。仕事で手一杯だったからかもしれない。

 でも、なんとなく母を想い続けていたからだと思う。そういうところがあるから、反発しつつ父には逆らえないでいた。
 
 私は改めて深くため息をついた。今日わざわざ呼び出されたのは退院に関する説明だろうか。それなら医師から指示があるはずだ。

 なんとなく……私の結婚に関する話だろうと予想する。和解した後、父は『本当にひとりで茉奈を育てていくつもりなのか?』『茉奈のために両親揃っていた方がいいんじゃないのか?』と何度も言ってきた。

 結婚なんて考えられない。恋愛する暇などまったくないし、茉奈が一番大切だ。けれど茉奈が父親というものを、父親の存在を知らないままでいいのだろうかと不安にもなる。

 父に感謝もしているし自分を不幸だと思ったことはないが、母がいなくて寂しい思いをしたのも事実だ。茉奈に同じ思いはさせたくない。

 元々、会社を存続させるため父が決めた相手と結婚するはずだった。皮肉にも恋愛で失敗している分、割り切る覚悟はできている。

 会社と茉奈を大事にしてくれる人なら、ゆくゆくは父の決めた相手と結婚を考えてもいいのかもしれない。
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