転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
弱虫うさぎと黒ライオン
 ここはノーブル王国。獣人だけが暮らす獣人国だ。
前世と違い、今いるこの世界では魔法や魔獣の存在も当たり前で、種族も人間、獣人、魔人などいろいろある。その中で、この国は獣人のみ暮らすことを許されている。世界でいちばん最初にできた、獣人だけの国。それがノーブル王国だ。
例外といえば、私の同居人であるベルくらいだろう。正式名はベルオム。フェンリルと呼ばれる大型の魔獣だ。全身真っ黒な毛に金色の瞳で、すごくかっこいい。
ベルとは偶然、ノーブルの森の中で出会った。そこで仲良くなった私たちは、それからずっと一緒に住んでいる。幼いころに両親を亡くしてしまった私にとって、ベルは唯一の家族みたいな存在だ。
ベルは特例として、国に棲みつくことを許してもらったと言っていた。くわしいことは私もよく知らないが、この国で獣人以外の存在はベルだけで、ほかの魔獣や聖獣は存在していない。
 魔法技術はあまり発展していないが、自然に囲まれ、王都は栄えており、なに不自由なく暮らせる豊かな国――。世間でノーブル王国といえば、そういったイメージがあるだろう。
 これは半分正解で、半分不正解である。
豊かな生活を送れているのは、王都に住む一部の上流階級の獣人のみ。……そう、ノーブル王国は、同じ獣人でも大きな格差があるのだ。
力もあり、獣人としての能力値が高い大型肉食動物の獣人が上流階級。王族や貴族はほぼ、このタイプの獣人が占めている。
次に身分が高いとされるのが大型草食動物、その他肉食動物の獣人だ。貴族や庶民両方いるが、庶民だとしても王都に近い町で生活しているものがほとんどである。王都からの来客も多いため、貴族と結婚して上流階級の仲間入りする者も多いと聞く。
そして最下層にいるのが草食小型動物の獣人だ。うさぎの獣人である私は、この最下層にあたる。
力仕事もほかの獣人に比べて得意でないことと、動物として強いものに捕食されていた側として差別されている。いくら飛びぬけた能力を持っていても、草食小型動物である限り、この国では評価してもらえない。
 王都から遠く離れた小さな村に隔離されており、来客もほとんどない。ここで暮らす獣人たちは自分で畑を作ったり、物を作って売ったりと、自給自足な生活をしている。お互い助け合いながら、決して豊かとはいえない日々を過ごしているのだ。
 しかし、貧しいなりに楽しく暮らしていた。でも最近は、村の活気がどんどんなくなってきている。
 その理由は、村の中で能力値の高かった獣人たちが、こぞって友好関係にある近隣のレガーメ国に移住したことにあった。自国では小動物系の獣人が肩身狭い思いをしているが、レガーメでは人間と獣人がなんの差別もなく、対等に暮らしていたからだ。そんな社会に憧れ、移住を決める者が後を絶たなくなった。村の重鎮といえる者たちがいきなり消えたことにより、残された村人たちは途方に暮れた。
 ……幼いころ、私も一度、レガーメの人間に偶然会ったことがある。
 私と同い年くらいの、幼い人間の男の子。優しい笑顔が、飼育員さんによく似ていた。
 身分の低い私にもとても優しく、うさぎの私を〝かわいい〟と褒めてくれた。そんな彼に、幼いながらに胸がきゅうっとしたのを覚えている。
私ももう少し大人になってお金が貯まれば、彼のいるレガーメに行ってみたい。
生まれ変わってなお、閉鎖的な村で一生を過ごすなんて、前世の塀の中での暮らしとあまり変わらない気がする。私も、今度は広い世界をこの目で見てみたい。……なんて夢見てはいるけれど、その夢が叶うかはわからない。
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