転生うさぎ獣人ですが、天敵ライオン王子の溺愛はお断りします!~肉食系王太子にいろんな意味で食べられそうです~
「リーズ! リーズ!」
「ん~……あ、ベル。おはよう」
 名前を呼ぶ声が聞こえて、私は夢から現実へと引き戻される。
 目覚めたばかりの私を、一緒に住んでいる魔獣のベルが心配そうな顔で覗き込んだ。
「……うなされていたぞ。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。ちょっと嫌な夢見ちゃっただけ。……さてと! 顔を洗ったら朝食の準備をするから、ベルは待っててね」
 さっと立ち上がると、私は洗面所で顔を洗った。冷たい水が気持ちいい。ぱしゃぱしゃと音を立て、いつもより長めに顔を洗いながら、さっき見た夢のことを思い出す。
 ――何度も見るあの夢。あれは、私の前世の記憶だ。
 前世の私は人間ですらない。飼育員さんが大好きな、ただの動物園で飼われるうさぎだった。毎日を同じ場所で過ごし、死ぬまでずっと出られない。そんな悲しい運命でも、飼育員さんと一緒にいられるなら幸せだった。うさぎの私は、無謀にも人間の飼育員さんに恋をして、結局その恋は当たり前に叶わぬまま、私は寿命を迎えあっけなく死んだ。
そんなうさぎとして過ごした記憶の中で、思い出したくないのに忘れられない強烈な思い出がある。私は一度死にかけたことがあるのだ――百獣の王と呼ばれる〝奴ら〟のせいで。
私を餌と間違えた奴らは、牙を剥き出しにして私を食べようとした。あの時飼育員さんに助けられなければ、私はあのまま食べられていたことだろう。
 食べられる寸前の記憶を思い出すと、未だに全身がぶるりと震える。いくら前世の出来事といえどトラウマものだ。
「はぁ。あんな怖い目に遭ったのに……またうさぎになるなんて」
 洗面所の鏡に映る自分を見て、私はため息をついた。
 黒目がちなアーモンドアイ。小さな口に、ピクピクとよく動く鼻。白いふわふわの髪の毛から生える、灰色のうさ耳。
 なんの因果か、今世で私は、うさぎの獣人へと生まれ変わっていたのだ。

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