義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

「……わかっていましたよ」


 しばし沈黙が流れたあと、伏し目がちな碓氷さんがぽつりと呟いた。彼女は目線を上げ、切実そうな表情で力強く続ける。


「先生に好きな人がいることくらい感づいていました。それでも諦められないんです。有罪率九十九・九パーセントの刑事事件も、とことん事実を追い求めれば逆転勝訴する可能性もあるじゃないですか」


 めちゃくちゃ前向きだな。

 想像以上に頑なな彼女に、心の中でツッコんだ。しかし、逆に遠慮はいらないだろう。俺もこの意思は曲げられないと、きっぱりと返す。


「いえ、この事実だけはひっくり返りません。断言します」
「異議あり! プライベートの私を知っていただければ変わるかもしれません。一度デートを……」
「異議申立を却下します」
「先生!」


 しばし裁判のような水掛け論が続き、俺たちの意見は平行線をたどる。さすがの頭取も困り果てた様子で、「霧子……もう諦めたらどうだ?」と口を挟む始末。

 最終的に、手に負えないと判断したらしい父たちが、「と、とりあえず今日は食事を楽しもうじゃないか」と、乾いた笑い交じりに宥めるのだった。

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