別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
奥さまの恵子さんは主に料理をトレイに盛りつける係で、量りもせずにピタッと同じ量のご飯を詰めるので、私はびっくりしている。


「心春ちゃん、そろそろ開けようか」
「了解です」


重さんに声をかけられて十一時少し前に入口の扉を開けると、ふわっと秋風が吹いてきて束ねた私の髪を揺らした。


私は大学卒業後、四年ほど大手食品メーカーの経理部で働いていた。

仕事自体はそれほど大変ではなかったものの、社員同士のコミュニケーションが盛んで、人と話すのがあまり得意ではない私にとっては居心地のいい職場ではなかった。

一流企業と称される企業のひとつで給料も高かったため、退職を決めたときは周囲の人たちから『もったいないよ』とかなり言われた。

それでも、限界だったのだ。

仕事が終わってからの半強制的な飲み会。
昼休憩のときに仲間と繰り出すランチ。
もっと言えば、人数合わせのために連れていかれる合コン。

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