別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
どれも気乗りせず、しかし笑顔だけは絶やさず黙って食べ物を口に運んでいたのだが、そのうちそれがひどく疲れるようになった。

私は〝広く浅く〟という付き合い方が苦手なのだ。


退職後職探しをして、食彩亭の売り子に落ち着いた。

接客業なのでもちろん人と会話をしなければならないけれど、深い話をする必要もないし、販売するだけなら最低限のやりとりで済む。

とはいえ、時々横柄なお客さんもいて萎縮してしまうのだけれど。


「いらっしゃいませ」


今日最初のお客さんは、近くの会社の事務員の女性だ。
週に一、二度、同僚の分もまとめて買いに来てくれる。

こうして早めにやってくるのは、食彩御膳が早々に売り切れてしまうからだ。


「今日はさつまいもご飯だ!」
「はい。おいしいですよね」


前の会社ではおどおどしながら話していたが、ここでは自然と声が出る。


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