別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
恵子さんにも聞こえていたようで、奥から飛び出してきて私を抱きしめてくれる。


「見てる人は見てるんだよ。心春ちゃん、幸せになるんだよ」
「ありがとうございます」


店頭だというのに涙がこらえきれなくなり、声を震わせた。


素敵な人に囲まれて、私は最高の人生を歩めている。

この傷を負ってからどうしても前向きになれなかったけれど、目の前がぱあっと開けた気がした。



結婚後は陸人さんのマンションに住むことになり、着々と引っ越しの準備をしている。

次の週末に休みをもらったので、彼と一緒に双方の実家に行く予定だ。

アパートで段ボール箱に荷物を詰めていると、懐かしいアルバムが出てきて手が止まった。


「この頃はなにも考えてなかったな」


小学校の入学式。
父と母の手を握って満面の笑みで写真に納まっている。

傷痕があることで周囲の人から避けられるとは知らない頃だ。
< 92 / 335 >

この作品をシェア

pagetop