マリアの心臓


ふわり、とツインテールが揺れて。
パーカーのフードが、落ちていく。


風に乗せて振りかざした拳は、目にもとまらぬ速さで、ぶさいくな面をへこませた。




「グアッ……!?」

「まりあに触んじゃねえよ」

「……え、エイちゃん……!」




本能に、逆らえなかった。

だめだって、わかってたのに。

限界、だった。


こんなやり方でしか、もうおまえを守れない。




「な、んで……! ここにいんだよ!!」




おさまらない怒りを、うしろのまりあに当たり散らした。

その手首に、締め付けられた痕がくっきりと残っていた。

また発作が起こったら?
熱が出て倒れたら?

今度こそ、オレの心臓はぶっ壊れる。




「エイちゃん……アタシ、」

「言っただろうが! 来んじゃねえって!」




なあ、わかってんのかよ。

……わかってくれよ。




「この携帯、アタシが持ったままだったから」

「そんなもん……!」

「それに……」




昨日から。

……いや、ずっと、ずっと前から。


光に透けた瞳は、逸らすことなく、オレを映し続ける。




「知りたくて、あなたの気持ち」




……バカじゃねえの。




「だから……」

「やめろ。知ろうとすんな。こんな……」




真っ黒で、無様な、オレのことなんか。

知られたくなかった。


他人の不幸も、血も、オレが背負っていくから。傷つくのはオレ独りで十分だから。だから!




「きらいだ」

「っ、エイちゃ、」

「おまえのことなんか……だいきらいだ!」




ごめん。




「迷惑なんだよ……っ!」




ごめんな。


オレのこと、きらいになっていい。

約束を破ったっていい。



お願いだ、まりあ。




「ここまで、堕ちてくんなよ……っ」




どうか、勝手に、幸せになってくれ。


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