マリアの心臓







うつろに瞼を開けていく。


そこは、真っ暗な闇の中だった。




何も見えないはずなのに。

なぜだろう。

どこか見覚えのある景色なような……。



おぼろげに辺りを見渡せば。

ぽつんと、ひとりの女の子がうずくまっていた。


立ち上がろうとして、やっぱりやめて、肩を震わせている。


泣いてるのだろうか。
……ううん。泣き声は、しない。



誰なんだろう。

どうしてここにいるんだろう。

この気持ちは、何なんだろう。



――聞かずとも、今ならよくわかるよ。




「まりあ」

「っ!」

「優木、まりあちゃん」




遅くなっちゃったね。

ごめんね。


ずっと、逢いたかったよ。




「あ……は、なむろ、マリア……っ」




その沈んだ肩に、うしろから腕を回した。

ぎゅうっと、やさしく包み込む。




「大丈夫」

「……っ」

「きらいじゃないよ。大好きよ」

「……ほんとう?」

「彼も、アタシも、あなたのことが好き。大好き」




ねえ、もうひとりの「あたし」。

あなたも、もう、わかっているんでしょう?


ここは、地獄なんかじゃないって。




「怖がらないで。どんなあなたも、アタシの愛するあなただから」

「……マ、リア……っ」

「愛に生きるあなたを、心からいとおしく思うわ」




震えが、止まった。

温度が高まっていく手を、固くつかみ合わせ、一緒に立ち上がる。



その瞬間。

純白の閃光が、一面に降り注いだ。


まるで桜吹雪のように、おぼろげに、甘やかに。



アタシの世界ごと、まっさらに散っていく。




「まりあちゃん。夢のような時間を、ありがとう」




長いようで短い日々だった。

楽しいことばかりじゃなかった。

それでも、救いはそこにあった。



あなたが、願いを叶えてくれたの。



だから。

次は、あなたを叶える番。




「アタシからは、アタシのハートをあげる。どうか大事にしてね」

「っ……まって……、あたし……まだ何も……!」




光がまばゆくなっていく。

狭まっていくあなたの瞳の中で、アタシは人生で一番幸せに笑っていた。




「またね」




天使の羽のような口づけを最後に、世界は朝を迎えた。


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