マリアの心臓

𝟒09ƆonfliƆt





泣き声がする。



誰だろう。

どうしてだろう。


この気持ちは、何だろう。




ゆっくりと瞼を押し上げた。

まばゆい光に包まれる。


あぁ、ここはいつもと同じ、真っ白な部屋に独り――




「まりあ……!」

「……え?」




――誰かが、いる。



突然、見知らぬ女性に抱きしめられた。

まりあ、まりあ、と何度もたしかめるように名を呼び、濡れた頬をすり寄せる。




「よかった……。本当に……生きててよかった……!」

「あ、あの、アタシ――」

「手術、無事に成功したんだよ、まりあ」




女性のうしろから、面識のないはずの男性が涙ながらにほほえみかけてくる。




「これで心臓はずっと動き続けられるわ」

「これから先、長く、一緒にいられるぞ。家族とも、好きな人とも」




何も聞けない空気だった。

されるがまま、体にやさしい温もりが伝わっていった。



誰なんだろう。

どうしてここにいるんだろう。


この気持ちは、何なんだろう。




「さ、元気になったお顔を、お母さんにようく見せて?」




本当は、気づいてる。

鏡を見なくてもわかる。



感触が、感覚が。

――この親愛なる心臓が。


鮮明なシグナルを送ってくる。



< 7 / 155 >

この作品をシェア

pagetop