冷え切った皮膚でも抱いといて
 横断歩道が見えてきた。赤信号だったそれが、まるで誰かに操作されているかのように、はたまた神崎の足を止めさせないかのように、都合よく、タイミングよく、青に切り替わった。神崎との距離は一向に縮まらない。神崎は一度も振り返ってくれない。神崎と呼んでも声にならない。声が出ない。喉を絞められているみたいに息が苦しい。足が鉛のように重たい。脳が理解不能な警鐘を鳴らしている。何かを警告している。何を。俺に何かを伝えている。何を。ああ、息が、苦しい。足が、重たい。脳が、痛い。頭じゃなくて。脳が。痛い。

 それは、突然だった。あまりにも突然で、よく分からなかった。すぐには理解できなかった。聞こえた音が、聞き慣れないもので。目にした光景が、見慣れないもので。大型トラックが人にぶつかる衝撃音。その人が宙を舞い、コンクリートの上に打ちつけられながら転がる光景。よく、分からなかった。それが、その人が、体のありとあらゆるところから大量の血を流して横たわるその人が、神崎だなんて、好きな人だなんて、よく、分からなかった。あれは誰。誰。誰か分からないのに、神崎だと分かった。神崎だと分かっているのに、あれが誰か分からなかった。矛盾。夢の中なのに、混乱して、発狂して、脳が矛盾を生じさせている。夢が、終わらない。夢から、覚めない。じゃあ、これは、現実なのか。
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