冷え切った皮膚でも抱いといて
 神崎が死んだ。信号無視のトラックが、横断していた神崎を轢き殺した。俺の目の前で。神崎は死んだ。神崎、とどうせ声なんて出ないと思っていたのに、言葉にしたら、何の皮肉か、声が出た。崩れる。涙が溢れ、止まらなくなる。神崎。神崎。神崎。夢、早く、覚めろ。

 儚い夢の中。俺は、何も伝えられなかった。今更叫んでも届かない想いに、死にたくなるほど後悔した。好きって言うから、好きって言って。好きって叫ぶから、好きって叫んで。俺も一緒に連れて行って。ジュースなら、アイスも一緒に連れて行って。殺して。溶かして。神崎。神崎。

 体が震える。寒い。凍えそうなほど寒い。それに緊張や不安も相俟って、俺は上手く息ができなかった。寒い。怖い。神崎。好き。好きなのに。伝わらない。伝えられない。その機会は、もうない。それでも、願ってしまう。求めてしまう。温かいその手で抱き締めて、神崎。俺以上に冷たくならないで、神崎。俺を殺して、神崎。死なないで、神崎。

 崩れ落ちて震えながら、寒色で表現されるであろうさまざまな感情を瞳からボロボロと落とす。夢の中であっても、神崎が死んだことが悲しくて、辛くて、それと同じくらい、膨れ上がる想いを今になって口にしても、彼の耳には届かないことが、彼の返答を得られないことが、どうしようもなく苦しかった。
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