冷え切った皮膚でも抱いといて
 友達じゃ物足りない。親友でも、何か足りない。体を重ねて満足できたかと言えば、そういうわけでもなくて。好きだって言いたいし、好きだって言ってほしい。それだけが唯一の、風穴の如く空いた埋められない穴だった。決定的に足りないもの。

 俺を撫でていた神崎の手が、気づけば静かに止まっていた。神崎、と声をかけようとしたところで、すやすやとした寝息が聞こえて。出しかけた声を咄嗟に呑み込んだ。俺に気を許しているかのように、神崎は無防備なまま眠っている。魘されていた俺を抱き締めて、目が覚めたら今度は自分が眠りにつく。緊張の糸が切れたかのように気を緩める神崎は、眠気が飛ぶほど俺を心配してくれていたのだろうか。そう都合のいい解釈をしたら、都合よく胸が甘く疼いた。

 熟睡する神崎に抱き枕のようにされながら、俺は目を閉じる彼の頬に指先を近づけ、軽く撫でるように触れた。起こさないよう慎重に。丁寧に。指を滑らせて。蕩けるような夢見心地に陥る。見えない心の奥の方から、抗えない欲求すら芽生え始めた。寝込みを襲う気はなかったのに、今、どうしようもなく、神崎とキスがしたくてたまらない。少しだけ。触れるだけ。それくらいなら、きっと許される。誰にともなく言い訳をしながら、俺は眠っている神崎の唇に、そっと自分の唇を重ねた。喉元まで出掛かっていた好きの言葉は、まだ、伝えられなかった。
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