きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように

 夜中に目が覚めてキッチンに行くと、ウッドテラスで夜空を見上げている父の姿があった。

 私も夜空を目に焼き付けておきたくて扉を開けて外に出る。

 その瞬間、心地よい温度と暖かい風が私を包み込む。

 「起こしたか?」

 父は私に気付くや否やそう言い、続けて、体調は大丈夫か、と聞いた。

 私は首を横に振り、父の隣に座った。

 「今日は楽しかった。ありがとう」

 「そうか」

 父は星に視線をやったまま口角を上げた。

 会話は続かず、定期的に沈黙が流れる。

 その度に決まって夜空を見上げて大きく息を吸う。

 無数の星が輝きを放ち、数百光年を超えて私たちを照らしていた。

 個々が集まってできたグラデーションに思わず涙が零れ散る。

 もっと早く出会えばよかった、とふとそんなことを思う。

 これまでは星ひとつひとつに感動をしたことは無かったし、そもそも夜空を見上げるなんてこともなかった。

 流されないように必死にしがみついて生きることに必死で、そんな余裕はどこにもなかった。

 でも、終わりが近づいてからは小さなことも幸せに思えるようになった。

 「ちょっと待っていて」

 父はそう言うと颯爽と室内に入って行った。

 帰ってくる父の手にはブランケットが二つあった。

 夜は風邪を引きやすいからな、と言い、それを私にかけてくれた。

 「最近、何か良いことでもあったのか?」

 「何もないよ」

 「そっか」

 「蒼来も幸せになる権利があるんだからな。でも___」

 「気を付けてよ、でしょ?」

 父が続きを言う前に言った。

 これに父は、読まれていたか、とでも言うように笑った。

 「私は大丈夫。突然消えはしないよ」

 そう言うと父の表情は少し晴れたように思う。

 家族を事故で失っている父からすればこの言葉は大きな意味を持つものだと思う。
 
 たとえそれが予測できない未来のことだと分かっていても。

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