きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
《また入院したんだって?》
翌日、透真くんは茶化すようにそう言って連絡をして来た。
《返信が来ないから心配したよ》
世界の果て、の話で連絡は途絶えていたから、思わぬタイミングでの連絡に咄嗟にそう返した。
《ごめん、寝すぎていたみたい》
その返信に、彼の病状の悪化を感じる。
《でも、無事でよかった》
「蒼来…こそ……」
声のする方を向くと、そこには透真くんの姿があった。
透真くんは早紀さんに車椅子を押してもらって、私の病室まで来てくれたようだ。
私は驚きが隠せず、開いた口が塞がらない、といった状態だ。
お互いに思うように話せる状態ではないけれど、久しぶりに顔を合わせたことが言葉で伝えられる以上のものを伝えられたような気がする。
早紀さんは透真くんを送ると、無理しないでよ、と言い残して病室を出た。
2人きりになった空間は無音だった。
お互いに体調が優れておらず喋ることが困難な状態で、会話は全て携帯で言葉を送り合う。
辛うじて動く手指で時間をかけて一文字一文字を入力していく。
《びっくりさせてごめんな》
透真くんは微かに微笑んだ。
《ううん、来てくれてありがとう》
お互いに身体を夢に乗っ取られているために反応がワンテンポ遅れるだけでなく、脳もなかなか回転してくれない。
ん?
夢に身体を乗っ取られる?
そこでふと疑問が浮かんだ。
夢の中に本当の自分がいる?
こんな状態だから大したことないものまで気にしてしまうのはあり得ないし、忘れてもいいものだと思った。
それなのに、どうしてか私の頭からは離れてくれなかった。
それで、透真くんにも聞いてみることにした。
《今、夢に身体を乗っ取られているんだったら夢の中の透真くんは元気なはずだよね?》
透真くんは私の質問に頷くようにゆっくりと目を閉じる。
《もしよかったら、一緒に夢を見ない?》
その誘いに透真くんは頷いてくれなかった。
残り少ない透真くんの時間をただのクラスメイトの私のために割くわけがない。
きっと、彼には彼なりの最期までのプランがあって、それを邪魔してはいけないとも思った。
だが、直後、透真くんは私の心配をしているのではないか、と思った。
一緒に望んだ夢を見るということはお互いの寿命が縮まることを意味する。
きっと透真くんのことだから私の寿命が削られることを心配しているのだろう。
そう思った私はまた手を動かし始めた。
時間を増すごとに手は思うように動かなくなり、何度も誤字を繰り返す。
その度に、消しては入力し直す、を繰り返して一文字に5秒もかかるようになってきた。
それでも、透真くんはじっと私を見て微笑み、待ってくれていた。
《私のことは心配しないで。もう十分生きたから》
私がそう言うとまた透真くんはじっと私を見た。
今の彼は話せないほどに弱っている。
だが、思いを伝えようと必死に表情で私に訴えかけてくれていた。
《私、気が付いたんだ。透真くんに出会えた私は本当に幸せ者だって。私の人生はみんなより短かったけど、透真くんと過ごした時間が、私の人生を最高なものだと思わせてくれた。この世の中も捨てたものじゃないって思えた》
これが私の気持ちだった。
初めは父のために生きようとしていた。
それが正解で、最低限の親孝行だと思っていた。
でも、それは間違いだった。
たしかに、その生き方も悪くはない。
だが、それを理由に自分と向き合うのを避けていただけなのかもしれない。
夢見病を言い訳に一度きりの人生から。
「い……、いき…たい……」
そんなことを考えていると、必死に絞り出した透真くんの声が聞こえた。
わざわざ身を削ってそれを言ってくれたのだと思うと胸にくるものがあり、無意識のうちに涙が零れ落ちていた。
「うん」
私はそう言って、夢の内容を考えた。
私は絶対に行きたい場所というものがなかった。
というよりは透真くんと行けるのであればどこでもよかったのかもしれない。
だから、透真くんが行きたいと思うであろう場所を考えることにした。
どこでもいいよ、と言うのは投げ出したようにも捉えられかねないし、せっかくだからじっくりと考えてみたかった。
とはいえ、透真くんがどんな夢を見たいのか、私にはさっぱり分からない。
元々、透真くんの生態を把握していなかったが故にあまりにも高難度な問題だ。
ありふれたもので言えば、夢見病だったから行けなかった場所となるのだが、思うように外出が出来ない夢見病からすれば基本的にすべての場所が該当する。
最近行った水族館は選択肢にないだろうし、かといって遊園地が得意なタイプかは分からない。
繁華街、海外、まさか温泉なのだろうか。いや、それは無いか。
《遊園地はどう?》
《遊園地がいいな》
私が聞くと同時にメールが届いた。
意思が合致したことにまず喜びを覚えた。
このことには透真くんも微かに口角が上がっていて再度幸せに包まれる。
それから、2人、目を合わせてゆっくり瞬きをする。
そして、お互いに遊園地の夢を2人で見たいと望み、静かに目を瞑った。
翌日、透真くんは茶化すようにそう言って連絡をして来た。
《返信が来ないから心配したよ》
世界の果て、の話で連絡は途絶えていたから、思わぬタイミングでの連絡に咄嗟にそう返した。
《ごめん、寝すぎていたみたい》
その返信に、彼の病状の悪化を感じる。
《でも、無事でよかった》
「蒼来…こそ……」
声のする方を向くと、そこには透真くんの姿があった。
透真くんは早紀さんに車椅子を押してもらって、私の病室まで来てくれたようだ。
私は驚きが隠せず、開いた口が塞がらない、といった状態だ。
お互いに思うように話せる状態ではないけれど、久しぶりに顔を合わせたことが言葉で伝えられる以上のものを伝えられたような気がする。
早紀さんは透真くんを送ると、無理しないでよ、と言い残して病室を出た。
2人きりになった空間は無音だった。
お互いに体調が優れておらず喋ることが困難な状態で、会話は全て携帯で言葉を送り合う。
辛うじて動く手指で時間をかけて一文字一文字を入力していく。
《びっくりさせてごめんな》
透真くんは微かに微笑んだ。
《ううん、来てくれてありがとう》
お互いに身体を夢に乗っ取られているために反応がワンテンポ遅れるだけでなく、脳もなかなか回転してくれない。
ん?
夢に身体を乗っ取られる?
そこでふと疑問が浮かんだ。
夢の中に本当の自分がいる?
こんな状態だから大したことないものまで気にしてしまうのはあり得ないし、忘れてもいいものだと思った。
それなのに、どうしてか私の頭からは離れてくれなかった。
それで、透真くんにも聞いてみることにした。
《今、夢に身体を乗っ取られているんだったら夢の中の透真くんは元気なはずだよね?》
透真くんは私の質問に頷くようにゆっくりと目を閉じる。
《もしよかったら、一緒に夢を見ない?》
その誘いに透真くんは頷いてくれなかった。
残り少ない透真くんの時間をただのクラスメイトの私のために割くわけがない。
きっと、彼には彼なりの最期までのプランがあって、それを邪魔してはいけないとも思った。
だが、直後、透真くんは私の心配をしているのではないか、と思った。
一緒に望んだ夢を見るということはお互いの寿命が縮まることを意味する。
きっと透真くんのことだから私の寿命が削られることを心配しているのだろう。
そう思った私はまた手を動かし始めた。
時間を増すごとに手は思うように動かなくなり、何度も誤字を繰り返す。
その度に、消しては入力し直す、を繰り返して一文字に5秒もかかるようになってきた。
それでも、透真くんはじっと私を見て微笑み、待ってくれていた。
《私のことは心配しないで。もう十分生きたから》
私がそう言うとまた透真くんはじっと私を見た。
今の彼は話せないほどに弱っている。
だが、思いを伝えようと必死に表情で私に訴えかけてくれていた。
《私、気が付いたんだ。透真くんに出会えた私は本当に幸せ者だって。私の人生はみんなより短かったけど、透真くんと過ごした時間が、私の人生を最高なものだと思わせてくれた。この世の中も捨てたものじゃないって思えた》
これが私の気持ちだった。
初めは父のために生きようとしていた。
それが正解で、最低限の親孝行だと思っていた。
でも、それは間違いだった。
たしかに、その生き方も悪くはない。
だが、それを理由に自分と向き合うのを避けていただけなのかもしれない。
夢見病を言い訳に一度きりの人生から。
「い……、いき…たい……」
そんなことを考えていると、必死に絞り出した透真くんの声が聞こえた。
わざわざ身を削ってそれを言ってくれたのだと思うと胸にくるものがあり、無意識のうちに涙が零れ落ちていた。
「うん」
私はそう言って、夢の内容を考えた。
私は絶対に行きたい場所というものがなかった。
というよりは透真くんと行けるのであればどこでもよかったのかもしれない。
だから、透真くんが行きたいと思うであろう場所を考えることにした。
どこでもいいよ、と言うのは投げ出したようにも捉えられかねないし、せっかくだからじっくりと考えてみたかった。
とはいえ、透真くんがどんな夢を見たいのか、私にはさっぱり分からない。
元々、透真くんの生態を把握していなかったが故にあまりにも高難度な問題だ。
ありふれたもので言えば、夢見病だったから行けなかった場所となるのだが、思うように外出が出来ない夢見病からすれば基本的にすべての場所が該当する。
最近行った水族館は選択肢にないだろうし、かといって遊園地が得意なタイプかは分からない。
繁華街、海外、まさか温泉なのだろうか。いや、それは無いか。
《遊園地はどう?》
《遊園地がいいな》
私が聞くと同時にメールが届いた。
意思が合致したことにまず喜びを覚えた。
このことには透真くんも微かに口角が上がっていて再度幸せに包まれる。
それから、2人、目を合わせてゆっくり瞬きをする。
そして、お互いに遊園地の夢を2人で見たいと望み、静かに目を瞑った。